そして誰もいなくなった。

書評、エロゲ―の批評等しています。感想、考察は基本ネタばれになります。閲覧にご注意ください。

<<書評>> -ビジネス本- 「『速さ』と『質』を両立させるデットライン資料作成術」

 

「速さ」と「質」を両立させるデッドライン資料作成術

「速さ」と「質」を両立させるデッドライン資料作成術

 

 図書館でさらさらーっと読みました。

 

著者は、マッキンゼーで情報収集などのリサーチ専門職として働いていた方だそうです。情報収集方法や、情報を収集する際の方針などといったことが書かれていました。コンサルティング職の人には、参考になるんじゃなかろうか、と思わせるくらい体系的にきちんとまとめられていた良書でした。

 

 

★読書メモ

 

・上司に「〇〇について調べといて」と指示されてたとき、その〇〇について、あらゆる情報を収集するのではなく、「何のためにその〇〇を調べるのか?」という目的意識をまず持つことによって、時間短縮にもつながるし、より効果的な情報を収集できることに繋がる。

 

・特定の業界について調べたいときは、MCCという軸で探すといい。

 M(Market:市場)C(Custamer:顧客)C(Competitor:競合)

 

・あらゆる情報(テレビ、ラジオなど)について、記憶にきちんと残るようにするための、心構え

 「ビジネスはどう動いているのか?」

 「世間で話題になっていることはなんなのか?」

<<書評>> -小説- 「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」

 

 かわいいタイトルとは反面、めちゃくちゃ「社会派」な作品です。私の中ではかなりおもしろかった部類になります。

 

特に、言及したいところだけ書き記すことにします。

 

・「子供にとって必要なものは安心だ。」とはどういう意味か?

おそらく、「砂糖菓子を撃ち続ける必要のない環境」ということではないでしょうか?わたしは、この「砂糖菓子」というものを「子供の論理」という風に読み替えて読んでいます。その意味において、子供の論理を振りかざす必要のない環境を作ることが大人にとっての責務なのではないか、ということを語りかけているのではないかといます。

 

・海野藻屑はなぜ、ミネラルウォーターを持ち歩いていたのか?

これも印象的だったのですが、海野藻屑は、山田なぎさ曰く「そんなにおいしいものじゃなかった。鉱物っぽいへんな味がした。いつまでこれを飲んでものどの渇きは収まらないような気がしてーーー」と評されるたいしておいしくもないミネラルウォーターを飲み続けていましたが、なぜこれを海野藻屑が飲み続けたのかと想像してみるに、「ただ心の渇き(むなしさ)を紛らわすためにひたすら飲んでいたのではないか?と私は考えています。

<<書評>> -書評- 「know」

 

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

 

 野崎まど著作「know」読了しました。

 

SF作品ということで、はじめてSFらしいSFを読んだ気がします。エロゲでやったSFといえば、「最果てのイマ」ぐらいで、あれは読み進めるのがキツかったのですが、この「know」に関して言えば、割と読みやすくて、SFというものがどういうものなのかを知る作品としては良い作品なのかなという風に思います。

 

が、キャラクターの魅力とかはあまり感じれず、特に主人公である「御野・連レル」については、徐々に影が薄くなっていくような感じがして、ちょっと残念でした。

 

ページ総数350項ということで、結構多いな...って感じで、あらすじに上手くまとめられるか心配ですが、書いてみます。

 

★あらすじ

 

西暦2081年、現代は「電子葉」の発明によって、パソコンやスマートフォンなどの端末を用いずとも、個人単体でネットワークに接続できるようになっていた。しかし、だれもかれもあらゆる情報に接続できていたら、ネットワークの維持に負荷がかかるという建前から、社会的に優遇されるべき人には、接続できる情報のレベルを厚遇するというクラス分けが行われていた。

 

「情報庁」に勤める、高級官僚である「御野・連レル」は、ほとんどの情報にアクセスできるクラス5を付与されていた。もともと彼が、情報庁に入省したのも、子供の頃に出会った大学の教授、かつ、「電子葉」の生みの親である「道終・常イチ」との約束を果たすためであった。

 

「君は自由でいなさい。

 情報が自由に得られる場所にいなさい。

 クラス5を目指しなさい」

この手紙を最後に、「道終・常イチ」は失踪した。

 

情報庁に勤め、情報審議官に昇進し、約束通りクラス5に昇格しても、そこから見える世界は、クラス4の延長線上でしかなかった。なにか啓示が得られるわけでもなく、ただ先生を失ったという喪失感だけが心の奥底を支配していた。

 

ある夜、いつものように教授の残した遺物であるソースコードを眺めていると、ふと違和感を感じる。ソースコードタイプミスがあることは、昔から気付いていたが、そもそもなぜ、「天才である先生がこんな私にでも分かるミスをするのだろうか?」と疑問に思った。そしてその瞬間、そのタイプミスが「御野・連レル」に宛てたメッセージであると直感した。

 

メッセージを解き明かし、失踪したはずの先生と再会することができた。そして、今まで心の中に蟠っていた喪失感を吐き出すように先生と議論し、そして先生の講義を受けた。

 

先生はなぜ失踪したのか?その理由は、「電子葉」の先を目指すためだった。現代のインターネット網はカオス化していて、人間の脳のような複雑性を極めており、かつ、人間の「癖」のようなものがインターネット上に発生していた。「電子葉」では、その癖を解析するだけの演算能力が足りず、新たなデバイスを開発するための環境を求めて「道終・常イチ」は失踪していたのだった。

 

そして、「御野・連レル」が訪れる今日よりもずっと前に、「電子葉」の完全上位互換「量子葉」が完成していたことを「御野・連レル」に告げた。そしてそのチップを埋め込んだ、「道終・知ル」が、講義中の教室に現れ、「御野・連レル」の眼前に立つ。

 

先生は、「道終・知ル」の頭を優しく撫でた。

 

××××××××××××××××

 

「後のことを頼みたい。そのために君を呼んだ。」

「後?後って何ですか?どういうことですか?」

先生は彼女の肩を優しく掴んで、体を離した。

「お父さん」 

 

先生は少女に優しく微笑みかけ、そして僕に顔を向けた。

 

「科学が求めるものはなんだ?」

 

それは問題だった。

先生が僕に出した問題だった。

僕は考えた。考えた。考えた。

けれど僕は答えられなかった。

はじめて会った時から僕は、先生に一度も追い付くことができなかった。

 

「”全知”だよ」

 

 

先生は解答を呟くと、懐から黒い塊を取り出した。僕がそれを銃だと認識する間もなく、先生はそれを自分のこめかみに当てて、「先に行く」と言って、そのまま撃ち抜いた。

 

 

××××××××××××××××

 

 

いやー、「良くできている」というのが、感想を述べる際の第一声になるでしょうか。

 

ほとんどの伏線は回収されているような気がしますし、SFとしての理屈付けも理にかなっているように思います。

 

例えば、未来を予測できるとはどういうことなのか?についての説明があります。

 

人間には想像力(未来を予測する)が備わっていて、それは、過去の経験を基に、想像を働かせている。では、あらゆる情報(過去)を収集できる者は、限りなく正解に近い予測をすることができるのではないか?

 

という、理屈付けがあったりします。確かに、ありとあらゆる情報が取得できるのならば、本人以上に本人を知っているのかもしれません。

 

その他にも、なぜ「御野・連レル」が選ばれたのか、なぜセックスの描写があったのか、なぜ「道終・知ル」は自殺したのか。

 

あとあと考えてみると、しっかりと納得できます。そこら辺がSFといわれる所以でしょうか?

 

<<書評>> -その他- 「死ぬほど読書」

 

死ぬほど読書 (幻冬舎新書)

死ぬほど読書 (幻冬舎新書)

 

 伊藤忠商事㈱の名誉理事である、丹羽宇一郎さんが、読書の効用や、読書の必要性、また、丹羽宇一郎さんにとって、読書というものがどんなものであったかを語った本です。

 

タイトルは、「死ぬほど読書」っていうことですが、タイトルに偽りありというか、丹羽宇一郎さんが伝えたかったのは、そういうことではないかと思います。「死ぬまで読書」がタイトルとしてはふさわしいように感じました。

 

「死ぬほど読書」っていうと、本人の意気込みを読者に発信していようで、すごく熱い性格の人なんだろうなぁ、と受け取られそうですが、読み終わってみると、内省的な性格の方で、ほんと読書が好きなんだろうなぁ、と思わせます。

 

 

★読書メモ

 

・インターネットが普及した今、アメリカの先の大統領選のときに起きたような、フェイクニュースというものが飛び交っていたりと、信頼の出来ないニュースや、情報が飛びかっている現状がある。情報の受け手は、ただ情報を安易に受け取るだけではダメで、批評的な見方が今後ますます重要になってくると考えられる。現状、ネット情報の信頼性が低いのが問題。その点、本というものは、書き手というものが明示されているので、信頼性が最低限担保されている。

 

・「知識」とは、ネットで引っ張ってくる断片的な情報のこと、ではない。情報を「考える」作業を経ないと、知識にならない。考えることによって、さまざまな情報が有機的に結合し、「知識」になる。

 

・教養とは、「自分が知らないことを知っている」「相手の立場に立ってものごとが考えられる」この二つがあって、「教養がある」と考えている。なので、いくら知識があっても、自分のいったことで相手が傷つくことを想像できない人は、教養があるとは言えない。

 

伊藤忠兵衛が、商売について語った言葉。「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買いいずれをも益し、世の不足をうめ、御心の心にかなうもの」

 

・入門書や、解説書だけでは、オリジナルの本来の空気感を味わえなかったり、伝わらないことがある。オリジナルを読むのは、時間も手間もかかるが、エネルギーを使った分だけ必ず血肉になる。

 

・著者の言っていることをそのまま受け取るだけでは論理的に考える力が身に付かない。そのため、その力を身につけるためには、「批評的に読む」事が大事。(著者の言っていることは正しいのだろうか?みたいな)

 

・読書は、著者や、登場人物と対話をする作業。その意味において、読書は決して孤独ではない。

 

・あとがき。「・・・そんな私が人生の最後に見る風景は、やはり本に印刷された文字と、それを介して想像される未知なる世界なのかもしれません。」

 

 

<<感想>> -アニメ- 「魔法使いの嫁4話~5話」

 

 

 

 

「・・・止まり木を見つけたかもしれないのに、

                  私はいつ死ぬのだろう。」

 

 

 

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

というわけで、「魔法使いの嫁4話~5話」視聴しました。

 

あらすじは......特に語る必要はないですかね。

 

正直、ストーリーとしては陳腐な感じがしますが、最後に智世の独白を聞いたときに、今までの出来事が押し寄せてくるように想起されました。

 

病弱の女、殺された猫、殺されたものの呪い、妙薬を求める男。

 

アニメの中で、死んでいく人たちを見ていて、ふと現実の死について思い起こされました。

 

わたしは、会計事務所に勤めていて、税理士会の会報とかが定期的に事務所に届くのですが、めくっていくと亡くなった税理士の名前とかが載っているんですよね。

 

年齢を見ると、うちの所長とあまり変わらないくらい。うちの所長は、普通に健康的ですが、あまり変わらないくらいの年齢で亡くなっている方も、一定数いらっしゃいます。

 

そういうのを見ると、死、というものを、漠然と考えていましたが、思ってたより身近に「ある」ものに感じられます。

 

アニメの中で、当たり前のように死んでいくものと、現実に死んでいくものに「差」はあまりないように、今回のアニメを見ていて感じました。

 

おそらくそれは、智世が、今回は視聴者側の視点で観察していたので、その智世の最後の独白ということで、一般視聴者の意見のように感じられたから、そんな倒錯的な思考に至ったのかもしれません。

 

そう考えてみると陳腐なストーリーでしたが、最後に巻き返されたような感じで、不思議な印象を持つ、回でした。

<<書評>> -ビジネス本- 「小さな会社の税務がすべてわかる本」

 

小さな会社の税務がすべてわかる本

小さな会社の税務がすべてわかる本

 

 図書館で借りた本です。

 

「小さな会社の税務がすべてわかる本」ということで、「すべて」ですから、どんだけ自信あるんだ、って感じですけど、読み終わってみたら自信に裏付けされた、中身の濃い良書でした。

 

Q&Aのような感じで、税金に関する網羅的な記述があります。勉強になりました。

 

 

★読書メモ

 

・法人成りの目安は、利益の80%を役員報酬とする場合、大体650万円~660万円

 

・法人の設立期間中に損益が生じた場合(設立の手続きをしている間の話)、その損益は、開業費とせずとも設立事業年度の損益にしてもよい(ただし、個人事業者→法人なりの場合の、設立期間中乃損益は個人事業者の損益になる。)

 

・開業費は、経常的に発生する損益(例えば水道光熱費)とかは含まれない。

 

・売上の計上基準は、原則、引渡基準。請求書を発行した段階ではない。実質、引き渡した日で見る。

 

・物の引渡自体は行われているが、金額をまだ提示しておらず、売価が決まっていない場合。→売価を適正に見積もった金額とする。売価が確定したら、確定した事業年度において、差額を計上する。

 

棚卸資産の評価方法を届け出なかった場合、最終仕入れ原価法により評価する。

 

・定期同額給与の臨時改定理由のなかの、

 業績悪化改定事由の具体例→業績の悪化に伴って、取引先等の利害関係者から信用を維持、確保する観点から、経営状況の改善を図るため。

 

役員報酬→代表者が実質基準により、損金不算入となることはほとんどないが、代表者の家族を役員に迎えている場合、税務上問題になるケースがある。

 

・決算賞与の問題点→業績が悪くなったので決算賞与を支給できませんとかになると、従業員のモチベーションが下がる可能性があるので、そこも検討事項ではある。

 

・外注費を給与認定された。

 →仕入れ税額控除ダメ、源泉徴収もれ、社会保険料のもれ、のトリプルパンチ(笑)

 

・役員に貸した社宅の家賃は、家賃相場も考慮して、適正価額を設定しないと、低すぎた場合、役員賞与認定→損金不算入になるので注意

 

・社員旅行についても、適正な価額に押さえないと、給与とみなされて、源泉徴収の問題が出てくる。

 

・寄付金については、交際費、広告宣伝費、に該当するのか実態を見る。

 

・海外視察旅行とかは、旅費規程、報告書等整備しないと、役員賞与→損金不算入となる。

 

・謝礼金、相手の名前を明かせない→使途不明金→損金不算入

 

・固定資産税は、支払った年分の経費となる。賦課決定年分ではない。

 

・償却資産税→1.4/100、で計算する。

 

・貸倒損失の計上基準

 債務者との取引が「なくなって」から1年以上経過。

 債権の「全額」を回収できないことが明らかである場合。etc...

 

・自宅を事務所として家賃を払う場合

 法人→支払った家賃は、すべて経費

 個人事業者→不動産所得として確定申告が必要。

 (確定申告料を払ってまでするか、というところがポイントですね。自分でできないことは無いんでしょうけど。)

 

・短期前払費用に該当する具体例

 地代家賃、リース料金、保険料、信用保証料

 

・車両を購入した場合、法定費用は、原則的にいえば、付随費用として資産計上すべきだが、税務上経費に落とすのも認められている。(いままで、当たり前のように経費にしてましたが、やっぱりちゃんと裏付けがありますよね、)

 

・会社の土地を、役員に特別に安く譲渡→役員賞与認定→損金不算入(法人と、個人という人格が別なんだってことを、意識しないといけないですよね。基本的に公正な取引であることが大事なんだと思います。)

 

・生命保険による節税は、解約返戻率が高いものを選ぶ。

 

・法人の利益が大きくなれば、別会社化して、「年800万円」に抑えるなどの方法も考えうる

 

・期限内申告書を提出できなかったことについて、相当の理由があるときは、延滞税が免除になるケースもある。

 

源泉徴収税額表、「乙欄」はなぜ、税額が多いのか。

 →もともと、「甲欄」は給与所得のみの場合と仮定しているので、二か所給与がある場合などは、所得も大きくなるので、「乙欄」は税額が多い。・

 

・住宅ローン控除で、所得税から引ききれなかった部分は、住民税から控除される。その場合、源泉徴収票の摘要欄の住宅借入金等特別控除可能額に引ききれなかった分を書けばいい。

 

★請求書等がないんだけど、仕入れ税額控除は受けれますか?

 一定の要件に該当する場合には、無くても仕入れ税額控除できる。

 ・・・「課税仕入れを行った者が課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けれなかった場合」など

 ただし、課税仕入れの相手方が容易にわかるように、準備をしておくこと。

 

・消費税の総額表示を怠っていたとしても、罰則はない。

 

・税務調査は、5、6月は、調査が甘くなりやすい。

 

・税務調査で世間話をするのは、社長の生活状況を把握するためでもある。そのお金をどこから捻出しているのかを探っている。

 

・税務調査では、役員個人費用の会社負担、資本的支出と修繕費がポイントになったりする。

<<考察>> -エロゲ―- 「はつゆきさくら」

 

はつゆきさくら 通常版 - PS Vita

はつゆきさくら 通常版 - PS Vita

 

「はつゆきさくら」クリアしました。

 

わたしがプレイしたのは、PCソフト版だったのですが、amazonの検索機能に引っかからなかったのでPSvita版を掲載しています。(18禁の関係?)

 

「はつゆきさくら」ということで...タイトル通りの出来だったと思います。

 

新島夕さんの作品をしたことがなかったので、どうなるのかなぁと思っておいたのですが、一通りクリアすると、「なるほど、こういう感じの作風なのね。」と理解しました。キャラクターの可愛さと、メッセージ性が両輪になっていて、バランス感覚からして、大多数の高評価も頷けるところです。

 

泣いてしまった...というような感想もあるようで。わたしは泣くまではなかったですが、Granduation編の桜ルートのエンディングロールで数秒映り込む3D演出には、ちょっとグッときました。なんか...ねぇ。自分が席に座っているような、懐かしい感覚。

 

 

 

 

では、考察です(ネタばれ注意。プレイしたことがない人は見ない方がいいと思います。)

 

 

本作が、他の作品とは違った面白さとしては、「卒業」をテーマに扱っているということが、まず珍しいと思います。まぁこの「卒業」という言葉も、そのまんまの意味でも使われるし、比喩としても使われるしで、額面通りな使い方ではないのですが。

 

卒業、とはどういうことなのか?ということについて、作中で言及していますが、一種の「区切り」とランは語っています。

 

ランは初雪に「卒業してほしい」と言っていましたが、ランはなぜ初雪に卒業してほしいと思っていたのでしょうか。それは、自分が「卒業」を迎えられないのが分かっていたから、なおさら普通になれる可能性のある初雪には、卒業してほしかったんだろうな、と思います。

 

ランは顔におそらく火傷を負った少女だったんでしょうね。ランは、病院で今なお療養中なのかは分かりませんが、女性の大切な顔に火傷の後が残ってたりでもしたら、それはもうショックで未来というもの到底考えられなかった、ということは容易に想像がつきます。作中でいえば「ゴーストに囚われている」とでもいうのでしょうか。「ゴーストに囚われている」というのは、つまり未来に希望を持ち得ない人のことを言っているんだと思います。

 

では、わたしたちは、ランにどういう言葉を投げかけてあげることができるのでしょうか?「ゴーストに囚われている人間」について何をアドバイスすることができるのでしょうか?

 

作中の言葉で、

「生者が夜な夜な死者の夢に焦がれるように、死者もまた生者の夢を見ているのなら、

 ・・・もしも彼らが、俺の夢を見ているというなら、そんな懐かしい人達のために生きてみてもいいのかもしれない。」

という、初雪の独白があります。(ちょっと抜粋しています。)

すごくなるほどなぁと思います。わたしは結構夢を見るタイプなんですが、高校時代とか、中学時代とかで縁があった人とかは割かし夢に出てきます。結構懐かしんで、起きてから孤独を感じたりするのですが、他人もまた、私が夢に出てくる可能性というものを否定することができないんですよね。それって結構、わたしが孤独を感じているようでいても、やっぱり人と繋がっている可能性を否定することができないんですよね。

 

わたしが死んだあと、ほとんど悲しむやつはいないだろうな、とふと考えたりもしましたが、それは結構自己中心的な考えで、やっぱり他人は他人で、ちゃんと存在して、考えていることも、わたしの想像してる範囲内には収まっていないはずです。今回のストーリーを見てわたしの他人に対する理解の仕方が足りなかったんだろうなと改めて考えさせられました。

 

いわゆる「独我論」に陥りがちなんだと思いますよ。「ゴースト、死者」の人たちは。自戒の意味を込めて言いますが。

 

ではそれを踏まえて、ランに何のアドバイスができるのか考えてみると、「あなたを悪く言う人がいるかもしれないけれども、あなたに親しみを持っている人もちゃんといるよ」ってことかもしれないですね。コンプレックスがあるとどうしても思考が内に内に向かってくるので、周りの存在を画一的に評価したりする傾向があり、「違うよ。他人は貴方が思っているように考えているかなんて決めつけられないよ。」と諭す必要があると思います。

 

そして、本人が一歩踏み出した時が「卒業」なんでしょうね。そして、卒業の場に立った時、今まで歩いた軌跡というものを見返した時にこそ、見えてくるものがある、とランが語っていましたね。結局のところ、前に一歩踏み出すことでしか、見えてこない景色というものがあるということでしょう。

 

他に、印象的なワードを挙げるとしたら「復讐」ですね。

 

初雪父の、復讐の動機の説明がありますけど、こちらも凄い納得するんですよね。やられたらやり返すって、確かに人道的には非難されると思います。しかも、それで気分が良くなるかというと、一時的には良くなるかもしれませんが、感情のしこりはずっと残されていくものかと思います。なので、合理的に考えると復讐することで物事が良い方向に向かうことは無いかと思いますが、それは初雪父も分かっていることで、それでも、やり返さないと報われない想いがある。と語っています。泣き寝入りなんてできない、と、泣き寝入りするぐらいだったらやり返してやる、ということですよね。もうなんか理屈じゃないですよね。そういう気持ちは。

 

そんな訳で、復讐を推敲するために担がれたのが初雪だった訳ですが、最終的には父と決別することになります。

 

これは、いうなれば父と初雪の復讐のベクトルが若干違ったからだと思います。父は殺されたからやり返す、という動機ですが、初雪は、桜(このときはランは生霊だということが判明している)を蘇らせるためには、復讐しかないという動機でした。ただは初雪は桜がそばにいてくれているということを理解していたので、もう復讐する理由はないということで、父と決別しました。

 

これはまぁ...なんというか、復讐自体を初雪が否定したというよりかは、復讐する理由がなくなったって感じで、そこまでカタルシスはなかったのですが、

 

ただ、「復讐」をやってるようじゃ、「春」は来ないし、「卒業」も出来ないんですよ。ということを、長いストーリーを通じて理解させるような説得力がありました。

 

なんでこの説得力を感じたかというと、多分伏線回収が見事だったからだと思います。複雑に見えますが、その説明を端折ってないのでほとんど不明点がないですね。これは中々できることじゃないでしょう。

 

一番好きなヒロインは、あずま夜。めっちゃ可愛いです。ちょっと真面目でツッコミ型なのがツボでした。

 

ほんと蛇足になりますが、東雲希とシロクマは、ゴーストライターがシナリオ書いたんじゃないのかとちょっと疑っています(笑)