そして誰もいなくなった。

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<<感想>> 「これは水です」

 

これは水です

これは水です

 

  分量がある本でないので、立ち読みで二回、自宅に帰ってきてから一回読み返しましたが、とてもすばらしい内容でした。

 こちらの本は、アメリカの作家デヴィッド・フォスター・ウォレスが大学の卒業式に招かれ、卒業生たちにはなむけの言葉として送ったスピーチを文字起こししたもので、分量もそこまでないので、本を読みなれてない人であっても最後まで読み切れる内容になっていると思います。

 こういうスピーチの場では、卒業した後、社会人としていかに生きることが「正しい」のか、そういったテーマで話されることが多いと思いますが、ウォレスはそのひとつ前、そもそもその「正しい」と信じるその無意識を意識しなければならないと語っています。

 私はずっと前から、「本と言う媒体で世界中の人に自分の意見を表明するためには、童話しかない」と思っていて、なぜかというと、ある程度コンパクトじゃないと最後まで読み切らないだろう、というのが一点、そして笑いが必要だとも思っていました。笑いのない物語は先を読みたいという求心力が湧かないので、途中でほっぽり出される可能性が高いと思うからです。

 そういう認識があったので、この本を読んだときは衝撃を受けました。なるほど、スピーチを文字起こしするのも、分量も多くならないし、加えてこの本には笑いもある。幅広い世代に薦められる本です。人生が変わるなんで簡単に言うもんじゃありませんが、ものすごく大切なことを言ってると思うのです。

 私は彼が言うように、すべての人の毎日の生活が「退屈、きまりきった日常、ささいな苛立ち」というのは言いすぎだと思いますが、年月が経つごとに無意識を意識することが無くなっていくのは事実だと思います。

 無意識を意識することによって選択する。それはとても難しいことです。なぜなら今までの自分を否定することに繋がるかもしれないし、そして、今までと違う自分を表出することになるかもしれないから。

 しかし、この苦難を乗り越えた先には、「自由」があります。ウォレスは自由が正しいとか正しくないとか言ってるわけじゃありませんが、私はその自由は、とても大切なものだと思いました。私はその苦難の道を選びたい。

 自分の言葉で言語化するのが難しい本ではありますが、ぜひ読んでみてください。ウォレスは作家ですから、スピーチの構成も良いし、文章も良いです。この本は「社会的成功の仕方」について語った本ではなく、「自由」について語った本です。