そして誰もいなくなった。

書評、エロゲ―の批評等しています。感想、考察は基本ネタばれになります。閲覧にご注意ください。

<<書評>> ‐ライトノベル‐ 「ミミズクと夜の王」

 

 

第13回電撃小説大賞<大賞>受賞作、なおかつ、ちょっとタイトル的にも表紙的にも面白そう、と興味を惹かれて購入しました。

 

あらすじとしては、自分の事をミミズク(鳥の名)と語る奴隷として扱われてきた少女と、魔物の王との心の通い合いを書いたお話。凄惨な過去を持つミミズクは、人間としてまともな扱いを受けてこなかったため、精神的に重大な欠損のある少女。魔物の王と関わり合いをきっかけに、人間らしさを取り戻していくお話。

 

 

 

 

 

 

以下、雑感です。(※ネタばれ注意)

 

 

 

 

 

 

正直、ストーリーとしては予定調和的に進むのであまり面白くなかったです。読者によっては、物語の結末が約束されたハッピーエンド過ぎて、あまり面白いとは感じなかった人もいたのではないかと思います。

 

しかし、シナリオの展開としては丁寧な印象を受けました。物語が前に進むために必要な役が揃っていたので自然な進み方だったと思います。

 

一点だけ気になることとしては、聖騎士アン・デュークがレッドアーク国王ダンテスを裏切るシーン。彼は夜の王を叩ききることはなく、夜の王の魔力を吸い取った水晶玉を破壊しました。彼は以前、国王から夜の王の脱走を援助した場合、一族全員根絶やしにすると国王から脅されていたのにも関わらず、夜の王を助けたのです。

 

結末としては、国王の息子クローディアスも魔王によって救われるので、国王にとって魔王を拘束する理由もなくなるので、アン・デュークの一族を根絶やしにする必要もなくなるのですが.....。

 

それはあくまで「結果論」ですよね。天秤に掛けられた一族の命があまりに軽すぎる。彼は何一つ葛藤もなく水晶玉を叩き斬りました。もし仮にクローディアスが救われなかったとしたら、アン・デュークは一族を守るため、国を相手に戦うつもりだったのでしょうか?

 

まぁ、それはそれで良いのですが、そこの記述が必要だったと思います。

 

 

さて、本編を読んだ限りではあまり面白くなかったというのが正直な感想ですが、著者のあとがきを読みましたらこの作品の評価が一変しました。

 

以下、引用です。P265-

「私安い話が書きたいのよ、と、熱に浮かされた病人みたいに、たち悪くくだを巻く酔っぱらいみたいによく言ったものです。私安い話を書きたいの。歴史になんて絶対残りたくない。使い捨てでいい。通過点でいいんだよ。大人になれば忘れてしまうお話で構わない。ただ、ただね。その一瞬だけ。心を動かすものが。光、みたいなものが。例えば本を読んだこともない誰か、本なんてつまんない難しいって思ってる、子供の、世界が開けるみたいにして。私が、そうだったみたいに。そういう、ね。ああ。小説を書きたいな。

そう呟きながら生きて来ました。理想と綺麗事が必要でした。「綺麗事だけじゃ生きていけないよ」訳知り顔でそんなことを言う先輩に、「私は生きていくよ!」そう返した若さと幼さはもう持たないけど、歯を食いしばりながら夢を見ました。今も、夢を見ています。」

-引用終了-

 

まさか「使い捨てでいい。忘れられてしまって構わない」というモチベーションで創作されている方がいるとは.....。私とは180度ベクトルが違う考え方をされていることにびっくりしました。

 

私がこのサイトで考察をしたりするのは、一つの側面として「自分にとってかけがえのない作品であったことを記録、かつ表現したい」という思いがあって、このサイトに記事を起こしています。私としてはエロゲにしろ、小説にしろ、あまり消費するもの、としては扱いたくないのです。それは創作に対する考え方にしても本質的なところでは同じです。

 

私とはベクトルが違いますが、「本を読むことによって救われた部分があるから」という一点で創作されているその姿勢は、純粋に素敵だなと思いました。

 

ハッピーエンドを貫くので、私の性格上、「ん....?」と首をひねるところもありましたが、他の人には布教したい作品ではあります。