そして誰もいなくなった。

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<<書評>> -ライトノベル- 「異世界が嫌いでもエルフの神様になれますか?」

 

 いや~、おもしろかった。最近のラノベはレベルが上がってるんじゃないのか、と感じましたね。「囲恭之介」さんですか...。他の作品も買ってみようかと思います。

 

ストーリーとしては、王道な作りになっていますが、テンポよく読ませる筆力は見事で、業界的には頭一つ抜けてるんじゃないでしょうか?想像力も掻き立てられるし、王道ながら続きも気になるし、純粋に読書っておもしろかったんだなぁ(笑)と再認識するような作品でした。

 

あらすじ、としては

 

ファンタジーが嫌いでしょうがない寒原兵悟が、自宅のガレージに設置した操縦席型巨大筐体ゲーム「戦塵のエキスマキナ」というロボSFゲームをを立ち上げようとした時、通信エラーが生じて気付いたら異世界ファンタジーにぶっ飛ばされていたというのが事の始まり。

 

侵略戦争あり、裏切りあり、思想の対立あり、とまさに王道な感じですが、各々の思惑が錯綜して物語が進んでおり、まぁおもしろいです。

 

ちょっとあらすじがざっくりしすぎな感じがありますが、読後感想を書いていこうと思います。(ネタばれあり)

 

1.好きと嫌い

 

寒原兵悟は、SFロボから人気を奪っていったファンタジーというジャンルが嫌いでしょうがなかったわけですが、久しぶりに会話したファンタジー好き、等々力束とのやり取りで、自分がなぜこれほどまでにファンタジーというものを嫌っていたのかが判明します。

「・・・・・こういうのって難しいよね。何かを好きだっていう純粋な気持ちが、いつの間にか歪んじゃって、別の何かを嫌う気持ちにすり変わっちゃうんだから。」

SFロボが好きであるが故に、人気を奪っていったファンタジーを憎んでしまっていたわけです。何かを信じる余り、何かを排他的になってしまうのは、一歩引いて考えてみれば健全な態度ではないことは明らかでしょう。

わたしも、時間の無駄、って思って避けてきたことが多々ありますが、無駄だと思っていたことが、案外無駄ではなかったってことも、これからはあるのかもしれません。

 

2.偽善と善

 

一神教だったリリパット族にとって、オリジナルの存在(神)が、二体もいることは矛盾でしかありません。つまり、エルフハイムには神はまだ降臨していないか、もしくは神は元から存在しなかったということになります。どちらにせよ、デウス・エクスマキナという存在は神ではないことが、ピュティに明らかになってしまいました。

メルクライラは、その弱点を突きます。

「あの男は、どこか遠くの安全な場所からセカンド・クリスを操り、神を自称して私達にちょっかいを出しているのです。可哀相なピュティ。あなたは、はじめから裏切られていたのですよ」

「これまで、あの男があなたを助けてきたのも、自尊心を満たすための我欲にすぎません。無条件で慕ってくれる信者を救い、感謝されるのは、さぞかしいい気分だったでしょうね」

見栄を張りたいがために、承認欲求を満たされたいがために、この男はちょっかいを掛けてきたのだと非難します。

しかし、ピュティは、神ではなかった、デウス・エクスマキナを擁護します。

「それこそ、おかしいです!他人のために何かをするということは、相手を思いやる気持ちと共に、そうしたいと願う欲があって当然ではありませんか。このお方は、それを誰よりも分かっておいでですわ。自己満足だと仰いながら、わたくしのために戦ってくれる・・・・・とても優しいお方です。神様は!」

「何を認めないというのでしょうか?わたくしは、ずっと認めていますわ。このお方は、わたくしにとっての神様だと」

わたしの知っている言葉で、「偽善を積み重ねれば、いつか善人になれる」というものがありますが、そもそも偽善と善に違いはあるのでしょうか?

善、というのは社会的な意味での言葉だと思いますが、そんなもん個人が把握するのは不可能でしょう。(モラルは確かにあるでしょうが...。)

あらゆる善行に配慮することが不可能である以上、個人が行う行為は、「偽善」でしかないように思います。つまり、偽善はいいことです。