そして誰もいなくなった。

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<<書評>> -小説- 「富豪刑事」

 

富豪刑事 (新潮文庫)

富豪刑事 (新潮文庫)

 

 

 筒井康隆著作、「富豪刑事」読了しました。

 

 

★あらすじ

 

 

ハバナから取り寄せた葉巻(一本、8500円)を捜査会議中くゆらせる男、神戸大助は刑事課の警察官である。大富豪である父、神戸喜久右衛門の一人息子であり、父には自分が悪行の限りをつくして築きあげた富を、捜査の際に使い込むことを期待されている。それが、自分の罪滅ぼしになると、喜久右衛門は考えるからだ。また、神戸邸には、美人女性秘書が同居している。名は、浜田鈴江。大助に好意を寄せているが、鈍感な大助はその好意に気付かず、無下にしてしまっていた。

 

神戸大助が、大富豪ならではの視点を使って、物語が展開し、事件を解決するミステリー作品。筒井康隆特有のユーモアや、鈴江の可愛さが魅力的です。

 

 

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ユーモラスな部分は楽しめましたが、ミステリーとしては、正直面白くなかったです。ただ、トリックとしての面白さというよりは、その魅せ方に凝った作品なのかな、と素人目に思いました。なので、ミステリー好きな人は、この作品を読んで、何か感じるところがあるのかもしれません。(少なくとも、解説文を執筆されている方は、感銘を受けているらしいです。)

 

 

 

★文中から引用して、コメント <<ネタばれ注意>>

 

 

▼「~発作を起こしている途中で思い出した。」P.25

 

 

大助が、喜久右衛門に事件のことで相談する。→喜久右衛門が「お前も、そんな大事な仕事を任されるようになったか」と感動のあまり鼻をすする。→「わしの悪行の限りを尽くして、稼いだお金を全部つかってくれ」とおろおろ泣きだす→急に発作が。→鈴江が介抱する。→「発作を起こしている途中で思い出した。」と、昔のツテを使って、捜査の協力をする。

 

までがワンセットです(笑)章が変わるたびに、たびたび出てきます。

第一章では、ロンドンフィルハーモニーをダンスパーティーに招こうと大助に提案しますが、もちろん却下されます。金管楽器まで呼んだら、BGMというより、もはやクラシックコンサートになっちゃいますよね(笑)

 

 

▼「宮本社長を殺害した時と同じ条件下に江草を追い込めばいいでしょう」P.86

 

 

第二章「密室の富豪刑事」からの引用です。

簡単なあらすじとして、真空鋳造部品を開発する会社を経営する宮本社長が密室で殺害されます。容疑者として商売敵の江草社長しか考えられない状況なるのですが、密室殺人ということで、江草社長が殺したという証拠がいかんせん、つかめない。

このままだと迷宮入りか、というところで、大助が「じゃあ、江草社長の商売敵になるような会社を私が設立します。そして私が経営者として席を置きます。宮本社長が殺された時と同じような状況を作り出して、相手のしっぽを掴みましょう」と提案する。

なんとも、大富豪らしい捜査の仕方です。

個人的に第二章が一番好きなのですが、面白いところとして、喜久右衛門の過去の人脈を使って、設立する会社の重役に、大学の教授や、大企業の社長級を次々と登用するところです。そんなことをしたらもちろん、商売敵どころか、完膚なきまでに叩き潰してしまいます。やりすぎなところが痛快でした(笑)

そして、江草社長がまた殺人を企てるのですが、結局未遂になってしまって、近くに張り込んでいた警察に、殺人容疑として逮捕されるという結末を迎えます。それで一件落着となるところがこれには後日談があります。元々、ダンピング戦略のため赤字を想定して設立したはずなのに、結局経営するうちに、メンバーがメンバーなだけに黒字になってしまいます。そして喜久右衛門から一言。 

 

「ここな親不孝者め。この裏切り者めら。なんというなさけないことをしてくれた。なんじゃと。く、く、黒字になったじゃと。儲かったじゃと。馬鹿者ども。誰が儲けてくれいと頼んだか。わしゃ赤字にせいと言うた筈じゃ。なんじゃと。く、く、黒字でその上、製品が評判で海外からも引き合いが来ておるじゃと。それではいずれ大企業になってしまうではないか。」

 

金なんぞ使い果たしたいと願う喜久右衛門の懐に、どっさりお金が入ってきてしまったとさ(笑)おしまい。